AIは「この10年を代表する投資テーマ」というのが一般的な見方です。興味深い点としては、さまざまな銘柄選定のアプローチが特定のテーマでの投資を拒否したにもかかわらず、結果としてAIの未来にとって重要な企業に投資することになる場合には、何が起きるのかということです。
ナティクシス・インベストメント・マネージャーズのグループ運用会社のうち、ルーミス・セイレス、ハリス・アソシエイツ、WCMインベストメント・マネジメント、ボーン・ネルソンの4社を見てみると、いずれも「AI(人工知能)」そのものに投資しているわけではありません。テーマ別の投資枠やトップダウン型のオーバーレイ、半導体の設備投資サイクルに合わせて最適化されたモデルポートフォリオもありません。
その代わりに、各社は個々の企業を起点として投資プロセスを通じ、結果としてAIへのエクスポージャーを取っています。そして、そこに至る過程の違いこそが、各社間の比較を示唆に富むものとしています。
ルーミス・セイレス:クオリティの高さによる複利的成長
ボストンを拠点とするルーミス・セイレスのグロース株式戦略(GES)チームは、AIが市場を席捲する何年も前の2019年にエヌビディアへ投資を開始しました。GESチームは、エヌビディアが有する独自のビジュアル・コンピューティングの強みは長期的な投資期間を通じて、単にゲーム分野にとどまらず、AIの構造的な成長をけん引する立場に繋がると認識していました。
2006年以来、GESチーム独自の「クオリティ、グロース、バリュエーション」に着目するプロセスが投資銘柄選定の指針となっており、クオリティとグロースの点から保有すべき銘柄を定義し、バリュエーションが組入タイミングを決定します。また、ビジネス・ドライバー毎に保有銘柄の分散を行い、特定のドライバーへの偏重がおこらないようにしています。
エヌビディアの成長の源泉は「AI向けGPU投資」であり、同ポートフォリオの中でAIを主要かつ長期的なビジネス・ドライバーとする唯一の銘柄となっています。一方、アルファベットは引き続き好調を維持しており、売上高の約75%をオンライン広告が占めており、これが同社の長期的な成長を支える原動力となっています。同社はAIを活用し、規模が大きく収益性の高い広告事業を強化することで、競争優位性を維持・拡大しています。
ルーミス・セイレスのGESチームのファウンダーでありCIOのアジズ・ハムゾウラリは、次のように述べます。「インターネット革命の時と同じように、エンドユーザ―および生産性の向上という観点では多くの勝者が現れると思われる一方で、バリューチェーンに直接製品を提供する『直接的な勝者』となる企業はごくわずかであることに留意することが重要です。なぜなら、プラットフォーム企業であることが求められ、膨大な研究開発費と設備投資が必要になるからです。」
その結果、互いに異なり、かつ相関性の低いビジネス・ドライバーにわたって十分に分散させつつ、確信度の高いビジネスで集中的なポートフォリオを構築することで、分散投資のメリットをより効果的に実現します。1
ハリス・アソシエイツ: 隠された価値を顕在化
米国のシカゴを拠点とするハリス・アソシエイツのアナリストたちは、企業の株価が「おまけ」をもたらすとき興奮を覚えます。ハリスの投資フレームワークにおいては、AIはそのような隠れた価値を引き出すための一つのツールです。
例えば、BNPパリバは、顧客エンゲージメントの向上、データ処理コストの削減、リスク管理の強化において、AI主導で2025年に6億3500万ユーロの価値を創出したと伝えています。また、IQVIAのAIエージェントは、製薬企業が臨床試験データをより迅速に、かつより良い成果を得られるように分析することを可能にしています。
ハリスにとって、AIは単なるテーマではありません。あらゆるセクターに浸透し、AIをうまく統合している企業とそうでない企業との格差を広げる、ビジネスレベルにおける改善の万華鏡のような存在だと考えています。
同社でパートナー兼ポートフォリオ・マネージャー、および米国株式CIOを務めるビル・ナイグレンは次のように語ります。「歴史が示すように、技術革命における最大の勝者はインフラ企業ではなく、その技術を活用してビジネス手法を改善する企業です。ウォルマートがコンピュータ化を導入したことで、シアーズやKマートが市場から淘汰されたように、インターネット時代においてもAOLやシスコではなく、アマゾンやグーグルが市場を支配したのです」。2
WCM: 加速する競争優位性の拡大
米国のカリフォルニアに拠点を置くWCMの投資哲学は、企業の競争優位性の軌道、それが拡大しているのか、縮小しているのかについて、焦点を当てたものとなっています。AIが意味をもつのは、企業と競合他社の間でギャップを広げることに役立つ時です。
モバイル広告メディエーション市場で約80%のシェアを占め、業界を席巻しているアップラビンのAIエンジン「AXON2」は、競争優位性を拡大させている企業の典型例です。セレスティカは、受託製造業者からAIインフラアーキテクトへと変貌を遂げ、ハイパースケールデータセンターの建設において中心的な立ち位置にいます。シーメンス・エナジーは、2035年までにデータセンターの電力需要が3倍以上になると見込まれている中、電化の波を捉えています。
WCMでは、ポートフォリオ全体におけるAI関連エクスポージャーをモニターしています。しかしそれは、決してAI単独の投資対象としてではなく、あくまで同社の投資哲学に基づいた「競争優位性の軌道」と「企業文化」という視点を通じて行われています。
「今では、誰しもが同じ情報を持っていて、スプレッドシートを作成できます。しかし、競争優位性を高め、成長をけん引するのは、『人』なのです。」と同社のポートフォリオ・マネージャー兼CEOのポール・ブラックは語ります。「WCMには、企業文化のみに焦点を当てて分析するアナリストが4人います。彼らは競争優位性の評価やバリュエーション評価に携わることもありません。WCMが投資するすべての企業について、人的側面の評価を行うことに専念しています。そうした分析から、企業文化とビジネス戦略の間に強い整合性が見られる場合に、将来的に非常に好調な業績を上げることができる企業であると確信します」。3
ボーン・ネルソン:二次的な機会
米国のヒューストンに本拠を構えるボーン・ネルソンは、「資本配分フレームワーク」を採用し、資本配分の動向に関する洞察を深め、将来の業績を左右する可能性のある重要な転換点を特定しています。この視点に基づき、ボーン・ネルソンでは、企業がAIから最も持続的可能な利益を得るためには、資本を「二次的な変化」(データプラットフォーム、生産環境、従業員の再教育など)へと再配分し、かつ規制やエネルギー問題への配慮と整合させスケーラブルな試行を可能とすることが不可欠だと考えます。
つまり大事なことは、企業の資本配分が、AIを活用した機能を中心とする包括的な業務改革をサポートしているかどうかなのです。組織的な業務の再設計を伴わずにインフラに多額の投資を行う企業は、収益性や持続的な影響力の面で期待外れに終わるリスクがあります。逆に、インフラと規律ある「二次的な」投資を組み合わせる企業は、持続的なリーダーシップと有意義な生産性向上を達成する可能性が高くなります。
ボーン・ネルソンの運用担当者は、もし人々が「今すぐAIに投資する」か「AIを支えるシステムに投資する」の二択を迫られた場合、AIを単に自動化の積み重ねとしてではなく、AIと共に学び、適応できるよう業務改革を行った企業を優先することが賢明な選択であるとおそらく示唆するでしょう。
同社の副CIOであるアダム・リッチは言います。「二次的なイノベーションは偶然に生まれるものではなく、資金によって支えられるものです。次の時代を担う市場のリーディングカンパニーとしての地位は、単にいち早く技術を導入するだけで得られるものではありません。組織の再編と連動した、的確な資本配分を行うことによって確立されるものなのです」。4
異なるスタイル、共通の軸
上記で登場する運用会社4社は、AIへの投資を意図して目指したわけではありません。市場平均を上回るパフォーマンスを発揮できると確信した企業を発掘したのです。彼らが見出したものは、AIの価値は、単に流行のキーワードとしてではなく、企業の経済性を実質的に向上できて初めて生まれるものであるということです。
AIを単独のテーマとして扱うのではなく、より広範なビジネスモデルや企業文化に組み込まれたものとして位置付けています。AIへのエクスポージャーを取ることは、投機的なAIへの賭けから生じるものではありません。企業の質に対する徹底的なボトムアップ分析と、ビジネスの経済性を本質的かつスケーラブルに向上させることで得られる成果、この両方を組み合わせることによってもたらされるのです。
これらの運用会社は、投資家が群がっているAI関連株を避け、実際に経済的な利益がもたらされる分野に資本を集中させています。言い換えれば、AIそのものが投資のテーマではなく、優れた企業がどのようにAIを活用するのかが重要となるのです。